月夜見
“大川の向こう”
  


      




広い広い川の向こうには、
大きな会社やJRの駅、何車線もある広い道路、
よそ行きのお洋服とかお使いものを買う街があって。
こっちからだと連絡船に乗ってかなきゃなんない。
も少し上流か下流に行ったら橋もあるけど、
そうすると随分な遠回りになってしまうので、
会社勤めの大人たちは、こぞって朝夕、艀
(はしけ)で渡る。
昼間には買い物にとお母さんたちが渡ってゆき、
その後の昼下がり、戻って来る渡しには、
川向こうの本校へと通う、五年六年の小学生が乗っており。
船着き場から それっとばかり、
我先に家まで駆けてく元気の良さよ。

 「じゃあな。」「また明日なっ。」

そんな坊やたちの中、
特に急ぐでもなく、駆けてもいかない子が一人おり。
いがぐり頭の少し伸びたの、まだ高い西日に光らせて。
しっかとした足取りでどんどんと、石積みの小道を歩いてく。
帰りたくないから足が重い訳ではなくって、
そうやって彼が通り過ぎるのを見かけると、
あれあれと釣られて追いかけようとして、
足がもつれの、すってんと転んでしまう子がいるからだ。

 「ぞろ〜っ。」

ほら。
こっちを見つけてパタパタと、
足元地面を靴裏で叩くような走り方をして来る幼い子。
同い年の子たちの中でもひときわ小柄で、
寸の足らない腕や脚を振り振り、
一生懸命に駆けて来る男の子。
川風にふわふわと、真っ黒な髪躍らせて、
顔中を“嬉しいvv”でいっぱいにして、
待ち兼ねたぞと駆けて来る。
さあ“今日”がこれから始まるぞと、
元気いっぱい駆けて来る。

 「おかーり♪」
 「たでーま。」

ちっちゃいお兄さんの仏頂面のお返事へ、
にゃは〜と微笑ってぴょこぴょこと撥ねて見せ、

 「今日は何して遊ぶんだ?」

早速のお言葉がこれだったりし。
まだまだ自分が世界の中心なのが否めない、
そんなお年頃のおチビさん。


    まあ待てって、俺、まずは家へ帰んねぇと。
    なんでだよぉ。
    寄り道しちゃなんねって、ノジコせんせーも言ってなかったか?
    ゆってた。だから俺、真っ直ぐ帰る。
    俺も、まずは家へ帰んねぇとな。
    う〜〜〜っ。
    おやつもあるし。
    おやつぅ?
    おお。今日はくいな姉がいるから、ちょっと期待薄だけど、
    え〜? なんで? くいな姉ちゃんのお焼き、俺大好きだvv
    ありゃあお焼きじゃねぇ、ホットケーキのつもりらしいぞ?
    ………おや?


傍から見れば、元気なチビすけが二人だが、
どうしてどうして、ちゃんとお兄さんしている片やに連れられて。
見通しのいい町並み、軒下伝いに ほてほて歩く二人連れ。
道なりに添うように植えられたサツキの茂みに、
赤い蕾がちらほら覗き、
そろそろやって来る初夏の気配、
そおっと教えてくれているのにも気づかずに。
間近い相手のお顔しか見てはない、
小さな仲良し、お家へ急ぐ。
石垣の上からは、ぶちの猫が一匹、
大きなあくびをしもって坊やたちを見送っていた。





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 *こういう企画は初めてですね。
  拍手お礼で書いたおチビさんたちのお話が案外と好評だったので、
  短期集中連載させていただこうかなとか思いまして。
  何話書けるかもまだ見通してはおりませぬが、
  まま、よろしかったならお付き合い下さいませですvv

 *拍手お礼に掲げた大元のお話はこっち。


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